挨拶

井合 進 ユニット長 H18-H19

遊融空間

46億年前に誕生した地球上では、様々な化学反応により有機物の分子ができ、それらが集まって40億年前に偶然に生命が発生したとされる。類人猿より400万年前に分岐した人類は、石器の発明、農業の発明により、それぞれ500万人、5億人にまで増加した。その後の技術革命が無かった1万年間は、人口が横ばいをたどったが、200年前の産業革命を契機に60億人と爆発的に増大した。さらに、20世紀の知識の爆発的増加にともない、今後50年以内に地球上の人口は100億人になると予想されている。人類は技術・科学の発展とともに人口を増加させたが、そのことが有限の地球に負荷を与え、逆に人類の生存を危うくしつつある。今「人類と地球の未来」をどのように維持していくかが問われている。

京都大学に平成18年度に設立された「生存基盤科学研究ユニット」は、このような問題解決を目指して設置された。同研究ユニットを構成する化学研究所、エネルギー理工学研究所、生存圏研究所、防災研究所、東南アジア研究所(総勢300名余の教員)は、これまで専門分野の課題を深く探究するアプローチにより、膨大な知識を深化させてきた。しかるに、同研究ユニットでは、分野横断型の課題を設定し、既存専門分野を超える広い範囲に研究の視点を拡大する必要がある。21世紀型課題へのアプローチの基本といえる。

生存基盤科学研究ユニットの設立にあたり作成された分野横断型の新しい組織モデルの設置構想提案書には、「遊融空間」なる研究課題名が入っている。画一的なユートピア的生存空間の創造とは異なり、ニーズに従って、やすらぎ空間、はつらつ空間、癒し空間、知的創造空間など、多様な生存空間を、その目的とそれに必要な性能に応じて短時間で創造・解体する新技術を、新材料科学、新エネルギー科学、自然環境治癒力科学、安心・安全科学を融合・総合化して創成するというものである。軽い冗談から発想されたものだったが、議論の過程で消滅することもなく、京都大学の組織に関する規程に正式に盛込むための設置構想の最終提案書内に見事生き残った。新しい発想を生み出す場として、まずは人と人が交わるところからはじめたいという自然な発想と重なるところがあるためかも知れない。

ーニューズレター「ISS」創刊号より-